星のように花が降り注ぐ、とはこういう景色を言うのだろう。聞き取る歌詞に一人頷きながら、大学への道のりを歩く。
昨日の雨で随分と散ったらしい。水に流されて綺麗なまま散った花弁が、排水溝を覆っている。毎年見られるそれに感傷を抱くほど繊細な質ではない、つもりだが、今は耳に流れる声に感化されているらしい。やけに、目に留まった。
歌い描かれる情景ではどこに咲いていたのかと思うほど大量の花が降り頻り、中央をゆく誰かの髪が踊るように揺れていた。別の曲を聞いて透明感のある歌声だと思っていたけど、この曲の声は終始どこか皮肉っぽく、切実だった。リズムが心地よく刻まれているので、曲の性質には反して自分の歩調も軽くなる。歌われている「あなた」のように。
高校の同窓生――なんなら中学でも同窓だったが、卒業後から今まで一切の消息を知らない――女の子と、最後に顔を合わせたとき、彼女は最近好きなアーティストがいるのだと教えてくれた。親友には足りないが十分に友人と呼べるその人は直前まで2ヶ月音信不通で、これが吟遊詩人とかではなくただの女子高生に起きたもんだから、誰もが心配したし、不安だったし、普通の顔で登校してきた彼女は酷い質問攻めに遭ったと聞く。
退避するつもりで向かっていたのだろう図書室は彼女の城であり、その真向かいには僕の居所である視聴覚室、つまり軽音の部室があった。読書家に殺されそうな狂った立地も、しかし今回ばかりは助かったと言える。まっすぐに背筋をのばし図書室に入ろうとしていた彼女と、視聴覚室から出たばかりの僕はばちっと目があい、どこにもなかった昨日からの延長みたいに、笑顔と会話を交わした。
「――春ってちょっと、やけくその季節だよね」
風情も何もない彼女の言葉を、思い出す。
高校卒業間近の僕らに必要だったのは感傷でも浪漫でもなく安堵だ。受験にしろ、同窓生が消えたことにしろ、彼女の人生にしろ、安全を確認したかった。これでいいのだと、安心したかった。卒業後に気づいたが僕は彼女の連絡先を終ぞ知らず、彼女がどこかでやけくそに春を過ごしているのか、長い黒髪を踊らせながら誰かの感傷の景色になっているのか、知る由もない。
彼女が教えてくれたアーティストの曲は、泡のように浮かぶ感傷をやけくそな切実さで殴る。皮肉めいた語調で訴える春の痛みに、どうしたって多少心が動く。
「……確かに、好きそうだな」
腐っては何度も咲くしぶとい流星の中を、笑い混じりに歩く。踏み出した数歩はあまりにも軽くて、誰かが見たら、踊っていると思われたかもしれない。