ほんとうに、まばたきをしていたら夏が暮れたようだった。  あしたから十月になる。  駅前の花屋に並びはじめた秋の花をながめていると、「おい」と声をかけられた。  耳慣れた声に振り向くと、参考書ぽい分厚くて…

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底に飴玉

   数日しないうちに、わたしはまた三人にみつけられた。 「葵ちゃん?」と声をかけてきたのは祐樹さんだった。のどから背中にしっぷを貼りたくっていたわたしは、その日もあてどなく動いていた足を止めて、三人の顔をみあ…

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晩夏と初恋

  「三人、いたよ」 わたしはよどみなく、指を三本たてて首をかたむけた。さわがしい昼休みの教室でわたしと談笑にふけっていた水屑くんが「へぇ?」とわかってなさそうな顔でうなずき、「三人って、同時に?」と質問を重ね…

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花菖蒲の独白

 昨日、彼女は早退した。昼休みに入ってすぐ、図書室で借りた本を返すと言って、教室を出て――チャイムが鳴っても戻らなかった。騒々しくサイレンを光らせたパトカーが数台校門の前に止まって、教室は不穏にざわめいていた。  副担任…

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 つめたい真冬の水に浸かりながら、たくさんのことを思いうかべる。  お花畑のようにカラフルなケーキ、聞かせてもらったCDの三曲目、おさがりでもらった白い綿のワンピース、高校の花壇に咲いていたパンジーと紫陽花、校門の横にあ…

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