拝啓 続くお前たちへ

   とりあえず、俺にとっての三人について話をさせていただくとする。  葛楓。こいつは高校生の頃の友人で、音信不通だった。日吉(ひよし)祐樹。中学高校と一緒だった友人で、音信不通だった。是枝──今は三橋(みつは…

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夏は遠く

   水晶を砕いたような光をまぶした海面を眺めていると、どこからか飛んできた花びらが頬を撫でていった。  落ちていくそれを受け止めようと掌を出すと、花びらはそこが終着点と言わんばかりに、自然な動きで中央におさま…

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再会する回游

   潮の匂いがすると、最初に脳裏に浮かぶのは錆びるのではないかとか、砂を噛むのではないかとか、そういう機材への気遣いになりつつあった。そんなこと言ったって、潮も雨も砂もすべてこのカメラと一緒に超えていくしか、…

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No Mobic

   大学に入って出来た友達の中でも、高嶋永句は群を抜いておかしかった。  始まりはと言えば、大学に入ってひと月ほど経ってから開かれた学部の新歓だった。男たちに群がられていたその夜一番の美人である彼女は、すべて…

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虎視眈々と燦々と

   あたしの知る限り。天野歩という人間が恋をしたことは、なかったと思う。テンポが一から百まで何もかも包み隠さずあたしに全部自白してる、ってわけじゃないから断言すんのは、「いや、断言していいでしょ」「あ、そ」ま…

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Hencefront

   最悪の出来事だった。  単純に、俺からしたら、本当マジで最悪の出来事だった。  俺、枯袖(かれそで)日宵は、バンドを組んだことがない。ずっと一人でギター一本だけ持って歌ったり弾いたりギターを捨てようとした…

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畢竟よ

   高嶋永句という女の子がいる。  彼女はとても音楽が好きで、好きで、それだけでこの暴力みたいな海を、海みたいな暴力を、泳いできた。  一方、俺こと天野歩は、泳ぐことを諦めた人間だったと思う。  だって、俺が…

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六月、某、雨上がり

   二十七歳で死んだら伝説になれる。  なんて話をしたら、きっと彼女は「生きて伝説になろうよ」と言うだろう。  あっけらかんと、なんでもなく、ごく当たり前のことのように。  わたしたちの誰もが、二十七で死ぬこ…

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幸福なおとな

   破滅が、俺の恋だった。  器用に生きてきたと思う。なにをするにも隣家のおばさんや寄り合い好きのおじさんたちに情報が拡散して生きづらい地元を離れて、東京の高校に進学した。狭いけど小綺麗な寮がついてるそれなり…

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もうじき夏が

  「それで、言わなかったの?」  高校二年生の初夏。  昼休みの教室で、秋雨はサンドイッチをかじりながらたずねた。わたしはおにぎりの最後のひとくちをほおばりながら「それでって、どれよ」と聞き返す。みじかい昼休…

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