春波をくだく真昼

Nagaku Takashima – Spring without blue

01. 8:03 [茅部このみ]

02. 波花 [三橋葵]

03. 憂綴る手 [君野夏樹]

04. 14:12 [渋川ほのり]

05. 18:38 [渋川ほのり]

06. 群青と反響 [末永泳澄]

07. 遠凪 [鈴城飛昂]

08. Hz [是枝仰]

09. 10:27 [井藤偲]

10. 春束 [藤開桜]

11. 白波 [高嶋永久]

 

 春を想う。
 花が咲く景色を思い浮かべる人もいれば、花が散る様を想像する人もいる。そもそも、花じゃなくたっていい。
 人の声を忘れてしまったような海辺に繰り返し押し寄せる、白い泡。どこか足りなさを感じる、潮の匂い。淡く澄んだ空の青さ。ひび割れたコンクリートの校舎。浮足立つ空気。呆気なく別れた、大切な誰か。
 あなたが春だと思えば、なんだっていい。本当は特別綺麗な情景も、感傷もなくていい。傷つかなければ人生が進まないってことはない。美しいもののために死ぬ必要もない。
 その上で、なおも人生を急かされるほど美しいものを見たのなら。それは生涯数十回しかない春のうち、あなたが反芻すべきたった数度の花であり、波であり、空であり、記憶だ。

 海辺で出逢った小説家は、ささやかな波の縁を見下ろして「まるで花筏だ」と言い表した。
 彼にとってどんな地図より大切だったろう筏はもう、記憶の中にしかない。けどそれも、眺める僕らにとっては切実で美しい。
 僕らは記憶を消費して生きている。感傷を、情景を、世界を、感覚を、反芻するたびに少しずつ削っていく。それが生きていくということだ。生きている限り爪先一ミリだって過去には戻れないから、春というものは美しい。

 ほら、気がつけば夏が来ている。
 冬の間、あんなに花が咲くのを待っていたのに。
 春とは想うものだ。
 だからあなたの春がどんなものだったか、聴かせてほしい。

 

All Songs Music, Lyrics, Arranged and Produced by Nagaku Takashima
Art design :  Limi
Title logo : Aoi Mitsuhashi
Photography : Togi