No Mobic
大学に入って出来た友達の中でも、高嶋永句は群を抜いておかしかった。 始まりはと言えば、大学に入ってひと月ほど経ってから開かれた学部の新歓だった。男たちに群がられていたその夜一番の美人である彼女は、すべて…
続きを読む →大学に入って出来た友達の中でも、高嶋永句は群を抜いておかしかった。 始まりはと言えば、大学に入ってひと月ほど経ってから開かれた学部の新歓だった。男たちに群がられていたその夜一番の美人である彼女は、すべて…
続きを読む →あたしの知る限り。天野歩という人間が恋をしたことは、なかったと思う。テンポが一から百まで何もかも包み隠さずあたしに全部自白してる、ってわけじゃないから断言すんのは、「いや、断言していいでしょ」「あ、そ」ま…
続きを読む →最悪の出来事だった。 単純に、俺からしたら、本当マジで最悪の出来事だった。 俺、枯袖(かれそで)日宵は、バンドを組んだことがない。ずっと一人でギター一本だけ持って歌ったり弾いたりギターを捨てようとした…
続きを読む →高嶋永句という女の子がいる。 彼女はとても音楽が好きで、好きで、それだけでこの暴力みたいな海を、海みたいな暴力を、泳いできた。 一方、俺こと天野歩は、泳ぐことを諦めた人間だったと思う。 だって、俺が…
続きを読む →二十七歳で死んだら伝説になれる。 なんて話をしたら、きっと彼女は「生きて伝説になろうよ」と言うだろう。 あっけらかんと、なんでもなく、ごく当たり前のことのように。 わたしたちの誰もが、二十七で死ぬこ…
続きを読む →破滅が、俺の恋だった。 器用に生きてきたと思う。なにをするにも隣家のおばさんや寄り合い好きのおじさんたちに情報が拡散して生きづらい地元を離れて、東京の高校に進学した。狭いけど小綺麗な寮がついてるそれなり…
続きを読む →「それで、言わなかったの?」 高校二年生の初夏。 昼休みの教室で、秋雨はサンドイッチをかじりながらたずねた。わたしはおにぎりの最後のひとくちをほおばりながら「それでって、どれよ」と聞き返す。みじかい昼休…
続きを読む →梅雨が細くなっていく糸のようにすぎると、花屋に桔梗や朝顔が並びだす。もう歩いているだけで汗がにじむ。夏が来たのだ。 きのうプール開きがあったけれど、わたしは一年のころから全部休んでいるので関係ない。夏休…
続きを読む →頭の左右に毎日結わえているリボンは、もともと文月さんのすすめでつけていた。 黒い髪をながくながくのばすのも、膝丈程度のワンピースを着ているのも、文月さんがそうしたらいいと言ったのだ。たしかに髪が短くてお…
続きを読む →「あ、ノウゼンカズラ」 「なんだそれ」 「えっと、ほら。あそこにたれさがってる橙色のお花。葉っぱと一緒に塀からのびてるの、みえる?」 「……あぁ、あれか」 瞳お兄ちゃんはわたしの手を握ったまま、淡々とうな…
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