始発、あるいは回想

Nagaku Takashima – she is    僕らは墜落した。  きっかけはあると思いたいが、明確なものはないのかもしれない。僕らは最初から終わっていた。爆散する鮮烈な夏にも、いつまでも…

続きを読む →

白波

 寝過ごした日曜日、起動に時間がかかる体を引きずってリビングに降りると、妹がピアノを弾いていた。 「……父さんたちは」 「あ、おはよう兄さん。お父さんたちは買い物」 「へぇ、そう」  双子の妹はきっちり服を着替えて髪もま…

続きを読む →

春束

「今めちゃめちゃアツい曲があるんですよ」  通話作業越しの相手はそのように前置きし、「流していいでしょうか……」と問う。大学サークルの友人なのだが、画面を通すと敬語が抜けないらしい。ちょっとわかる。 「構わんよ」  向こ…

続きを読む →

10:27

 バンドを組んでいた頃、彼女の鼻歌をよく聞いた。  高校の軽音楽部止まりだったそのバンド――エコーが、日の目を見ることはなかった。彼女の曲を人前で演奏することはないまま、バンドのほうが死んだから。  部活のバンドはどこも…

続きを読む →

Hz

 店内に音楽を流すのはそもそも先代店主の趣味だ。僕自身は入った店で音の有無を気にしたりしない質だけど、お客さんのほうはそこで新たな芸術との出逢いも生まれるらしい。店内音楽にいちゃもんつけてくる人間がいないっていうのは、店…

続きを読む →

遠凪

 星のように花が降り注ぐ、とはこういう景色を言うのだろう。聞き取る歌詞に一人頷きながら、大学への道のりを歩く。  昨日の雨で随分と散ったらしい。水に流されて綺麗なまま散った花弁が、排水溝を覆っている。毎年見られるそれに感…

続きを読む →

群青と反響

 その楽曲はツイッターでバンドのライブ日程を告知したあと、自分のアカウントに引っ込んで、何を投稿するでもなく、大して数もないツイートの群れを下からのぼっている最中に出てきた。  バンドを組んでいる二人のうち、片方がリツイ…

続きを読む →

18:38

 初めて彼女を観た夜、アコースティックギターを弾きながら歌う彼女の声は美しく、演奏もやはり綺麗だったが、そもそも僕はギターが専門外で、上手いけれど上手いということしかわからなかった。そこに至るまで何年ギターを持てばいいの…

続きを読む →

14:12

 才能は音楽を特段美しくしない、と彼女は言った。  彼女にとって、音楽はそれだけで美しい。  そう感じられることが、僕からすれば既に、才能だ。  晴れた春の休日、新宿の街を歩く。大きな目的はなく、時間の許す限り、道行く人…

続きを読む →